今回は「動植物アロ認証」研究領域の班員の1人、掛田克行先生のお仕事の紹介です。私が論文を拝読した限りでは「nature」や「science」に掲載される論文が書けるまで、あと一歩のところまで来ていて、逆に現段階でデータを論文にして公開してしまって良いのかな?という印象を受けました。ですので、この文章も掛田先生の論文が出版されるまで伏せていた方が良いのでしたら、内緒にしておくことにします。でも国内に研究競合者はいないと思いますので、文章はこのままで良いのかもしれません。

 オオムギなどのイネ科植物は2つの(S locusとZ locus)遺伝子座によってコントロールされる自家不和合性(SI)システムを持ちます。この2つの座位は論理積回路(「ANDロジック」論理回路)を作ります。つまり2つの座位がそろったときにはじめて、受粉の拒否が起こるというものです。拒否のされ方はものすごく急で、不和合な花粉は発芽しません。その点が、花粉が発芽して花粉管が伸びたのちその伸長が阻害される、他の自家不和合性システム(S-RNase-based SIを含む)とは大きく異なっています。
 なおイネ科の自家不和合性システムはGSI(gametophytic SI)です。その対義語がSSI(sporophytic SI)です。これは自家不和合性が花粉などの1倍体ゲノムの遺伝子型自身によって決定されるか(前者)、親の2倍体ゲノムの遺伝子型によって決定されるか(後者)というものですが、自家不和合性システムの分子的なメカニズムの解明が進んでいる現在では、このような分類は過去の遺物になってきていると思います。それよりも例えば「自己認識」なのか?、「非自己認識」なのか?という分類の方が、本質的かつ重要です。

 1本目の論文は
Mol Genet Genomics 280, 509–519 (2008)
Molecular and genetic characterization of the S locus in Hordeum bulbosum L., a wild self-incompatible species related to cultivated barley(オオムギのS locusの単離)
Katsuyuki Kakeda, et al.
というものです。
 正確に言うと、Hordeum bulbosumというのは栽培されているオオムギそのものではなくて、それと近縁な野生種です。この論文ではこの種のS locusに関して、リンクするAFLP、RFLP遺伝マーカーの単離と、STSマーカーへのコンバートが行われています(これらの専門用語について不明な場合は「遺伝子地図」をご覧下さい)。

 2本目の論文は
Plant Cell Rep 28, 1453–1460 (2009)
S locus-linked F-box genes expressed in anthers of Hordeum bulbosum(オオムギの葯で発現するS locusとリンクしたF-box遺伝子群)
Katsuyuki Kakeda
です。
 この論文ではS locusと0 cMという距離で密接にリンクする2つのF-box遺伝子群について報告されています。これらの遺伝子群はLRR(ロイシン・リッチ・リピート)モチーフを持ちます。
 これらのF-box遺伝子にはほとんど多型がないこと、サザン・ブロッティング解析を行った結果によるとオオムギのゲノム中にはF-box遺伝子が大量に存在していることが示されています。
 私の見たところ、これは「S-RNase型自己非自己識別」に書いたS-RNase-based SIのケースに酷似しているような気がします。
 つまり2つのF-box遺伝子群は「1つの大きな遺伝子クラスターのメンバー」であって、F-boxタンパク質が取り込まれてできるSCFユビキチンリガーゼは、RNaseとは異なるタンパク質の分解に関わっているのではないか?ということです。タンパク質分解を実験的に確かめることは困難なのですが、あるいは、論文の議論を上記のようなものにすれば、データは全くそのままの形で「nature」や「science」に掲載されてしまうのではないか?と思うくらいです。

 

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