我々ヒトも脊索動物門・哺乳綱・霊長目の動物である、ということを生物学の授業で最初に教わります。味覚・嗅覚の化学受容体の話は、あとでまた論文を紹介しようと思いますが(これもまだまだ謎の多い素晴らしい研究です)、ヒトにもフェロモン(知覚されない嗅覚物質)がある、ということも生物学の授業で教わります。
 
 性周期同調フェロモンというのは女性の腋下部のアポクリン腺などから分泌される無臭のフェロモンで、それを嗅ぐことにより月経の周期が変化します。修道院や女子寮のルームメイトなどの月経周期は次第に同調してくることが知られていましたが(ドミトリー効果)、その原因となるフェロモンであると考えられています。つまり、卵胞期の分泌物は女性の排卵を促進することにより月経周期の短縮を誘導し、排卵期の分泌物は排卵の遅延をおこし月経周期の延長をもたらす、ということです。

 このフェロモンの実体は明らかになっていないようですが、2種類のフェロモン物質が存在する、ということですね。ヒトのフェロモン候補物質としてはPDD(pregna-4, 20-diene-3, 6, -dione)が有ります。またフェロモン感知部位となるのは鋤鼻器です。PDDを鋤鼻器に作用させると、フェロモンによる嗅電図と類似の電位変化が得られます。またアンドロステノン(汗に含まれるステロイド)も候補になっています。

 大きな問題点になるのが、成人には鋤鼻系は存在しない、ということです。ヒトの鋤鼻器は、胎児期あるいは新生児期には存在が認められますが、大人になると退化して、仮に存在しても痕跡程度です。ヒトフェロモン受容体の遺伝子は、嗅覚器内の嗅上皮で発現しているそうです。鼻中隔(左右の鼻の穴を分ける仕切りの部分)の基部です。
 従ってヒトフェロモン分子は嗅上皮で受容されている可能性があります。鋤鼻系ではなく嗅覚系で情報伝達が行われている、ということです。
 
 ムスク(麝香)には雄のジャコウジカのフェロモンが含まれています。麝香はアンモニア様の強い不快臭を持つ赤いゼリー状の物質だそうです。主成分は15員環の大環状ケトン構造をもつムスコン(3-メチルシクロペンタデカノン)で、ムスコピリジン(これも大環状化合物)、アンドロステロン、エピアンドロステロンなどが含まれています。マスクメロンの「マスク」とは「ムスク」のことです(単に強い芳香という意味です)。

 

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