イタボヤで組織適合性の自他識別も受精時の自他識別も同じ遺伝子座位(fuHC座位)によってコントロールされているということについては

Int. J. Dev. Biol. (1994) 38, 237-247 (1994)
Allorecognition in compound ascidians(群体ボヤの自他認識)
Yasunori Saito, Euichi Hirose, and Hiroshi Watanabe

というレビューに載っていたのですが、紹介してある雑誌が私の生まれる前のものとか、かなり古く手に入れることができませんでした。

Nature 295, 499 (1982)
Protochordate allorecognition is controlled by a MHC-like gene system(原索動物の自他認識はMHC様の遺伝子システムによってコントロールされている)
V. L. Scofield, J. M. Schlumpberger, L. A. West, & I. L. Weissman

には「組織適合性と受精時の自他識別は明らかに同じ遺伝子座位によってコントロールされている」と書かれていたのですが、それを明確に示すような遺伝学実験は行われていませんでした。おそらく本格的な遺伝学解析を行った仕事はまだなかったのでしょう(2000年に、否定的な遺伝学解析の論文が出版されています。「イタボヤ・その4」)。
 ちょっと話はずれるのですが、遺伝学実験の結果というのは、物理学や数学の教科書を読んだときのように理解するのが難しいですね。「遺伝学」から「分子遺伝学」になって、ものすごく理解するのが容易になったのを覚えています。「昔の人はよく実験スキームを理解できたなあ」と思うとともに、実験の結果をイラストに図示しても分かりやすくなるということはなく、「なぜそうなるのか」というしくみを(この場合は遺伝子)を説明してくれた方が圧倒的に分かりやすくなるように思いました。昔の人も、遺伝子のような物理的存在を頭の中に思い描いていたのかも知れません。

 私が見つけたこの問題についての唯一の記述は

Genetics 149, 277–287 (1998)
Mapping the Genome of a Model Protochordate. I. A Low Resolution Genetic Map Encompassing the Fusion/Histocompatibility (Fu/HC) Locus of Botryllus schlosseri(イタボヤのfu/HC座位の低解像度ゲノムマッピング)
Anthony W. De Tomaso, Yasunori Saito, Katharine J. Ishizuka, Karla J. Palmeri, and Irving L. Weissman

という論文に載っていた「fuHC座位を共有しない精子の方が、共有する精子よりも活発だ」というもののみでした。ですので、イタボヤで組織適合性時と受精時の自他識別が同じ遺伝子座位によってコントロールされているかどうかは未解決の問題であるように思います。

 私自身は、
・組織適合性と受精時の自他識別が同じ遺伝子座位(fuHC遺伝子座位)によってコントロールされていても良いのではないか?(受精時の自他識別はfuHC遺伝子座位ではない部分に存在するそうです。私の予測はハズレですね。)
・その場合受精時の自己・非自己識別は、fuHC遺伝子サイト内に存在するポリシスチン(s-テミス)分子によって行われているのではないか?
・FuHC分子と相互作用するのはfester (Uncle fester)ではなくてポリシスチン分子なのではないか?
と考えています。これは前の文章(「イタボヤ」)で書いたとおりです。

 

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