小学校の頃に良く書かされた読書感想文、これは立派な評論文の一種で、書くのが難しい文章です。良い文章を書くのは難しいですが、文を書くという出力の方向に工夫をこらすことは読解力の向上に直結しますので、どんどん練習したら良いと思います。森博嗣先生もエッセイの中で「漫画は絵のセンスが必要だが、文章にはそのような才能は不要で、練習すれば誰でもすぐに上手くなる」というようなことを言っていました。
 良くない感想文の例として私は小学校の時、本のあらすじを書いて最後にちょこっと自分の感想を述べたような文章を紹介されたのですが、本の感想を書くのであればまずはあらすじをきちんと紹介するのが筋です。あらすじの中に余計な言葉が入るとストーリーが理解しづらくなります。長々とあらすじ紹介をするのはいけませんが、小学生の皆さんは、自信を持ってあらすじをまとめて下さい。要領よくコンパクトに文章を書いて、素晴らしいあらすじにして下さい。
 灰谷健次郎さんに「せんせいけらいになれ」という児童書があり、その中に「ドナウ河のさざなみ」についての素晴らしい感想文がありました(この曲は近鉄特急・名古屋駅の発車音楽になっています)。あまりにも感想文がすばらしかったので、実際に音楽を聞いたときに「あれ、こんなもんかな?」となったのを覚えています。ここで言いたかったのは質の高い感想文というのは、時折その対象をも上回ることがありうる、ということなのです。

 現在、本が手元になくて書けないのですが、私自身はいつか、アンドリュー・パーカー「眼の誕生〜カンブリア紀大進化の謎を解く」(草思社)という本の感想文を書いてamazon.co.jpのページに投稿してみようかな、と考えています。カンブリア紀大進化(カンブリア爆発)というのは、その前の時代(先カンブリア紀時代)に比べて動物が爆発的な進化を遂げたという現象です。カンブリア爆発という現象については スティーブン・ジェイ・グールドの「ワンダフル・ライフ〜バージェス頁岩と生物進化の物語」(早川書房)という本に詳しく載っています。この本は大ベスト・セラーで私があらためて宣伝を重ねる必要もないのですが、科学書のお手本のような素晴らしい本です。
 とても有名な動物ですが、カンブリア紀最大の捕食者だったアノマロカリスの化石復元の話はこの本の白眉となっています。以前、この種の触手の部分の化石はエビの腹部のものだと考えられていて、輪切りのパイナップルのような丸い口の部分はクラゲの化石、ひらひらとした胴体部分はナマコの一種であると考えられていました。しかしながらこの3つの化石が実は1つの動物の色々な部分であって、3つをまとめた復元図があらたに描かれた下りは、胸が躍るような話になっています。ちょっと違うのですが、ほ乳類の「シフゾウ(四不象)」の話に似ています。これはシカの仲間なのですが、角がシカの角、頸部がラクダの頸部、蹄がウシ、尾がロバに似ているということでこのような名前が付けられました。
 有名な話ですが「ワンダフル・ライフ」には現在は科学的に間違っているとされる記述がいくつかあります。例えばこの本の中で、独立な動物門に属するとされた動物のいくつかは節足動物門などの既存の動物門に属するのでは、といったものです。今は世界中のあちこちで軟体部の化石が含まれるカンブリア紀の地層が見つかって化石の発掘も進んでいますので、どんどん正しい姿が復元されている途中です。カンブリア動物の生きていた時の様子も徐々に分かってきました。

 ハルキゲニアという自転車みたいな奇怪な姿をした動物がいます。この復元図は上下、前後が逆に復元されていたらしい、ということがあとで分かりました

(http://www.kcn.ne.jp/~agnostus/room2/hallu.htm から図を引っ張ってきました。この図は逆転後の正しい復元図です)。つまり「まっすぐな足だと考えられていた突起が実は上に突き出すトゲだった」というものです。そればかりかオーストラリアの山中に現生するカギムシ(有爪動物)がハルキゲニアの仲間だということが分かりました。カギムシというのは英語でベルベット・ワームという名前がついていて、数十cmの大きさをもつビロード状のイモムシです。私は今までこの動物を見たことがないのですが、いつか眼にしてみたいものだと思っています。相当大型の動物だし、気色悪くて逃げ出すかも分かりませんが…。大学生の頃に読んだスコット・ギルバートの「発生生物学」の教科書にハルキゲニアの復元図があり、「世の中にはこんな奇怪な姿の生き物がいるんだ…」と思い、私がこの業界に入るきっかけになりました。
 ピカイアという動物は「ワンダフル・ライフ」にも登場してくるのですが、現生するナメクジウオと形が非常によく似ています(よく見るとピカイアはナメクジウオよりもさらに原始的な動物なのですが)。ナメクジウオの形態が化石的なものであると記述する所以です。

 「ワンダフル・ライフ」に関する余談が長くなってしまったのですが「眼の誕生〜カンブリア紀大進化の謎を解く」という本はこの爆発を引き起こしたのは捕食者が眼を発明して、非捕食者の姿をとらえることが出来るようになったからだと議論しています。眼が出来ると非捕食者は捕食者から逃げ回る必要が出てきます。食べられないようにするために、動かない動物は毒を作るとか、素早く泳げるようになるとか、形態が一気に多様化して現在のような姿に近づくことになりました(ワンダフル・ライフ)。
 このようなことを言い出した人は過去に何人かいたのかも知れませんが、コロンブスの卵みたいな「言われてみれば誰でも思いつきそうな重要なこと」を実際に考えつくというのは素晴らしい大発見です。もし本当に以前にそのようなアイディアを考えついた人がいなかったとしたら、パーカーさんをこの仮説の提唱者と見なしても良いのではと思っています。私自身は以前「進化は受動的に起こる」という文章でも書きましたが、「形態学的に化石的な動物は、ゲノム構造的にも化石的である」ということを提唱したいと思っています。この問題に関する論文やパーカーさんみたいな科学書を書いてみたら良いのかもしれません。

 

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