「永訣の朝」(詞:宮澤賢治、曲:鈴木憲夫)という合唱曲を演奏した時のことです。
 暑い夏の日だったのですが、指揮者の中村恭之さん(東京大学・大気海洋研究所)が本番前の短い練習を終えて最後に
「それでは1922年11月27日(賢治の妹:とし子さんの亡くなった日)の雪が降るのを待ちましょう。」と言いました。
 この言葉はものすごく良い言葉で、ステージには夏真っ盛りだというのに真冬のような空気がたちこめ、素晴らしい演奏になりました。
 ただしこの話には後日談があり、彼は演奏会の打ち上げの席で、私も含む複数の人の前で「昨日からあのセリフは、言おうと思って考えていたんだ」と言いました。それを言っちゃあダメだろう、と私は思ったのですが、でもいずれにせよ私は彼の作り出す音楽が大好きでした。

 もう一つは合唱団京都エコーの副指揮者だった堀一男さんのセリフです。
 シューマンの「グロリア」を歌ったときに、
「そんな立派な声で歌ってはいけません。パートソロがパーンとメロディを歌ったあとで "そやそや" とか相づちを打つように軽く歌って下さい」と言いました。
 堀さんは本当に言語感覚の優れた人で、同じ曲のある部分を指して「この部分はワクワクしながら歌えば良いんですよ」と言いました。彼の言葉で音楽がガラッと変わって、流れるようになったのを覚えています。

 

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