世の中の巻貝の9割方は右巻で、左巻の巻貝には「サカマキガイ」などというような「逆向き」という名前が付けられています。この巻き方の方向はらせん卵割の第3卵割の向きが右巻の貝では動物極からみて時計回りに、左巻の貝では反時計回りになるからであることが、古くから知られていました。つまりそのことによって、オーガナイザーとなるD系列割球(32細胞期の3D割球や64細胞期の4d割球)と、誘導先の割球との相対的な位置関係が決定されるからです(http://www.jst.go.jp/erato/project/kkm_P/kkm_g/02-3.html)。ですから割球を押したりして物理的に卵割方向を変えると、巻貝の巻型も変えることができます。

 ルイス・ウォルパート博士によって、1990年に「F」分子のキラリティが動物の左右軸も決定するという仮説が立てられましたが、その仮説は基本的に正しいものであるということが、分かると思います(「ノード流」もご参照下さい)。ルイス・ウォルパート博士は「モルフォゲンの勾配モデル:フランスの国旗モデル」も1960年代に提唱しています。これはチューリング・モデルの特殊な場合なのだ、というのは「チューリング・パターン(シマウマの縞模様)」に書きました。
 巻貝の胚を物理的に操作することによって巻型を変えることができる話は、また時間のあるときに紹介しようと思います。
 
 らせん卵割の卵割方向というのは、第3卵割の向きが時計回りだったら、第4卵割の向きは逆向きの反時計回りになる、というものです。ですから私は「らせん卵割」という名前はおかしい、「テンプ卵割」とでも呼ぶべきだ、と昔から言っていました。
 と言ってもテンプに馴染みのない若い人は多いように思います。テンプとは機械式時計の部品のことで、時計回りと反時計回りの運動を繰り返します(http://www.fhs.jp/Mechanism/mecha/page1.htm)。

 卵割などの細胞の分裂方向がどのように決まるのか、という問題は、非常に研究者の多いもので、未だ未解決のものです。ただこの文章では「らせん卵割」と「放射卵割」は基本的に同じものだということを述べることにしようと思います。
 なぜ「らせん卵割」で卵割方向が「時計回り」→「反時計回り」→「時計回り」→…となるのか、というと、卵割方向はその一つ前の卵割方向と90°異なる、垂直なものであるからです。ですので最初の割球の並び方が垂直なものであったなら「放射卵割」になりますし、ちょっとずれていたら「らせん卵割」になります。
 「らせん卵割」という言葉の意味は卵割方向のことだけではありませんで、その後の発生過程も広く含んだ包括的なものです(http://www.pnas.org/content/97/9/4434/F1.expansion.html)。

 細胞分裂は核分裂と細胞質分裂の2つに分けられます。「4・ショウジョウバエの前後軸形成」で、ショウジョウバエの初期発生では核分裂のみが起こり、シンシチウム(1つの細胞の中に核がいっぱいある)の胚をつくる、というお話をしました。巻貝の巻型の研究を行っていたときに、同僚の大学院生たちが巻貝の卵割以降の発生現象を「後期発生」と呼んでいたのを可笑しく思った(立派な「初期発生」ですので、「後期発生」とは一般的には器官発生などのことです)のを懐かしく想い出します。
 
 なぜ卵割方向が前の卵割方向と90°異なる、垂直なものになるのか?、ということの理由ですが、細胞内小器官である中心体も分裂します。したがって中心体は2つの中心小体から成っていますが、その2つは垂直な位置関係にあるからです(http://www.biological-j.net/blog/2008/09/000554.html)。
 
 核分裂の際には微小菅細胞骨格が中心的な役割を果たしますが、細胞質分裂で中心的な役割を果たすのはアクチンフィラメント(=マイクロフィラメント:主にアクチンとミオシンから成る)です。
 細胞がくびれる時にはアクチンフィラメントから成る収縮環が形成されます。それが筋肉のように収縮すると2つの細胞になるというわけです(http://www.cc.kochi-u.ac.jp/~tatataa/biology/Q2011/120110.html)。そして収縮環の形成される位置は2つの中心体の中間位置です。

 植物細胞ではこれと異なり、細胞内部に細胞板が形成され、これが外縁の細胞膜に到達することで細胞質が仕切られるそうです。

 

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