これは理系の高校生以上の、理科系の人間にとっては常識なのですが、私の妻(文系の人間)にその話をしたら感動されたので、この文章に記しておきます。「時間の流れ」というものです。

 熱力学の第2法則というものがあります。「閉鎖系のエントロピーは一様に増大し続ける」というもので、何のことかさっぱり分からないかもしれないのでちょっと解説します。
 エントロピーというのは「でたらめさ」をあらわす物理量です。例えば運動エネルギーは全ての分子が一方向に進んでいるエントロピーの低いエネルギーです。同様に光エネルギーというのもエントロピーの低いエネルギーです。ところが熱ネルギーというのは多数ある分子がさまざまな方向に進んでいる、エネルギー量としては光エネルギーなんかと同じでも、エントロピーは高い状態です。物理の世界ではエントロピーを数学的に計算する式もあるのですが、文章のエントロピーの計算など、ちょっと計算が複雑すぎるので、この概念を感覚的に理解してもらえればと思います。文章や画像の圧縮もエントロピーと密接に関わっているもので、例えばもとが白一色の画像などは、どんなに巨大な画像だったとしても zip 圧縮するとサイズがものすごく小さくなります。圧縮に可逆圧縮と不可逆圧縮という2つの種類があると思いますが、前者のものはエントロピーが増大することはなく、いつでも元の状態に引き戻せます。熱エネルギーと似たものが「ホワイトノイズ」というもので、この画像ファイルや音声ファイルを可逆圧縮してもほとんどサイズは縮小されません。
 生物なんかはずいぶん秩序だっている、と思われるかもしれませんが、これは食べ物などの、小さなエントロピーを持つ物質を体内に取り入れて秩序立たせているということです。これを「系」といいます。閉鎖系と言った場合は生物と食べ物をまとめて考えないとならず、全体を見るとエントロピーは必ず増大している、とこういうわけです。エネルギーが反応の前後で保存される、というのは熱力学の第1法則ですので、生物は「エネルギーを食べているのではなく、低エントロピー状態を食べている」という言い方をします。
 ものごとは決して逆には進まず、割れた皿が自然に元に戻るようなことも起こりません。つまりエントロピーが増大する方向というのが「時間の向き」というものです。

 ところが、熱力学の第2法則というのは決して自明な法則ではなく、もし宇宙が膨張し続けるものではなく、膨張と収縮のステップを繰り返すのだとしたら、収縮過程ではエントロピーが減少し続ける、というSFのような話があります。つまり動画を逆再生したように全てのものが自発的に秩序だったものになっていくということです。

 

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