「進化は受動的に起こる」という以前の書き物の中で「生殖隔離が起きて種分化がなされる」と書きました。この箇所は大切なところなので少し補足します。

 つまり、種が分化するときには「生殖できなくなる」ということが大切なキー・ポイントになっているということです。従って「ある種では成立するが他の種では成立しない」ということが、他の生命現象に比較して生殖プロセスの分野では特に頻繁に起こりうる、即ち生殖に関わる分子は種間で著しく機能分化していることになります。

 このようなことから起こる問題を避けるために「受精研究を行う際には何かモデル動物を1つに定めて研究を行うのが良い」ということがすぐに分かると思います。これはゲノム解析を行う際に「対立遺伝子の配列同士が異なることによってもたらされる問題を避けるためには、出発点となるゲノムは1個体に由来するものに限るのが良い」というのと同じことです。
 これでちょっと思い出したのですが、例えばヤワラカユウレイボヤのゲノムは2007年に解読されました。用いたゲノムはもちろん単独個体に由来するものでした。しかしながらこの種のゲノムはあまりにも対立遺伝子間の変異が大きすぎたため、まとめてアセンブルすることを諦めて、ゲノムの大きさのちょうど2倍の大きさのアセンブルの結果が報告されました。つまりこのアセンブルにはすべての遺伝子が2つずつ(父方由来と母方由来のもの)含まれていることになります。もしかするとこの現象はこの種に限ったことではなく割と一般的なことなのかも知れません。つまり、野生の個体はほとんど全ての遺伝子をヘテロで持っています。それを実験室で数世代飼育して遺伝子のほとんどをホモにするように仕向けないで、取ってきたそのままの個体を用いた場合はどの種でも同じような結果が得られるのかも知れません。もしかするとゲノム解析を行う際には、単独個体からスタートするということに加えて、取ってきた個体を数世代実験室で飼育して殆どの遺伝子のホモ化を行う、ということが付け加わるかも知れません。

 これまでの受精研究は、ほ乳類の受精は体内で起こるので、体外受精が容易に観察可能な生き物で研究が行われてきました。そうした生き物はいっぱいあるので、つまりは色々な生き物の研究成果がごちゃ混ぜになってきました。
 マウスでフレームワーク作りをするのは容易なことではありませんが、受精研究が行われている生き物として、線虫(Cエレガンス)というノーベル賞の受賞対象にもなった生き物があります。この種は世代時間も短く遺伝学的な解析も容易です。また詳しくは解説しませんが、遺伝子の機能の解析も大変容易に行うことができます(例えばモノを食べさせるだけで特定遺伝子が働くのを抑えることができます)。この種の受精の様子は少し変わっていますが(例えば精子に鞭毛がない)、例えばこの種でフレームワーク作りをしてみてはどうでしょうか?
 私自身はオタマボヤという生き物はどうかな?と思っています。この種も体外受精を行います。重要なことはこの種の世代時間はわずか5日間しかないと言うことです。しかもこの種は脊索動物ですし、ゲノム配列も既に解読されていますので、脊索動物の理想的な実験モデル動物になりうる可能性を秘めています。この種はすでに大阪大学の西田宏記先生の研究室で実験室での飼育に成功しています。私も西田先生にこの種を分けて頂くか、自分で採集に行こうかなという夢は持っていますが、その一方で、私以外の誰かがこの仕事をやってもそれはそれでたいへん結構なことだと思っています。あまり力にはなれませんが精一杯応援させて頂きますので、「この研究をやるよ」と言うのであればメールなどで教えて下さったら有りがたいです。

 

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