以前に書いた「発生と遺伝」という書き物で生化学に対して悪いイメージを持った読者の人もいると思うので、少し補足します。これはアプローチの方向に優劣があるということではなくて、向き不向きがあるということなのです。生化学という学問は、結果の解釈が一意に定まらず何通りも可能な解釈が提供されるので、フレームワーク作りには不向きです。しかしながら遺伝子によって直接的に作られるわけではない糖鎖の科学や、遺伝子の配列を越えて(遺伝子の化学的修飾や、後天的に決まるものなど)物事が決定されるエピジェネティクスの分野では遺伝学はほとんど無力で生化学の独壇場です。蛇足ながら我が研究室も以前は「発生生化学」という名前で現在は「海洋発生生化学」という名前の、生化学の研究室です。
 これでちょっと思い出しましたが、以前進化学者の友人に「進化の系統樹を作る際の形質はどうやって選ぶんだ?」と訊いたときに、彼は、にやっと笑って「芸術さ」と答えました。確かに当時は形質の選び方によって系統樹の形は変わりうる状態でしたので、自分の望む形の系統樹を作るために形質を選択することは可能でした。しかしながら現在は全ゲノムの比較が可能になったような時代で、形質の数は天文学的に増加しました。ほとんどの系統で系統樹は一意的に決定され、昔ながらの形態的に系統樹を作ろうという学者は仕事を失っています(あるいは分子進化のフィールドに移行しています)。それが時代の流れなのです。
 

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