今回のテーマは「進化は受動的に起こる」ということです。おそらく進化学者や大学院生にとっては常識かも知れませんが、一般には広く誤解されていると思うのでその誤解を解く意味でもこの文章で解説を加えてみようと思います。

 東日本大震災で原発のメルトダウンが起こりました。大量の放射性物質が放出され、発がん確率が高まることが憂慮されています。
 腫瘍とは電離放射線によって遺伝子が傷ついて変異し、細胞が無限増殖するようになったことでできたものです。腫瘍のうち、特に転移能力を持つものが悪性腫瘍と名付けられ、俗に「がん」と呼ばれています。ですので例えば白血病はすべて転移能を持つ「血液のがん」です(もう少し言うと「がん」というのは上皮性のものに限るので悪性腫瘍=「がん」というのは不正確かも知れませんが世間ではそのように使われています)。
 しかしながらチンパンジーとヒトのゲノム構造を比べても明らかになったように、進化は遺伝子が変化したことで起こります。遺伝子の変異はほとんど有害ですが、でも進化の原動力になってきたと言うことです。誰が名付けたのか分かりませんが、ごく一部生まれた有利な変異の生き物は「有望なモンスター」と呼ばれ、進化研究の分野では広く使われています。

 進化研究の大切な結論の1つは、そういった進化を産み出すDNAの変異は方向性なくアット・ランダムに起こるということです。方向性はその後の選択プロセスによって生まれます。即ち、ある遺伝子を持った個体はより多くの子孫を残せるので、集団内におけるその遺伝子の割合が高まります。それが「受動的に」と言う言葉の意味です。本当に、生物の世界には誰かが能動的にデザインしたのではないかと思わせるほど見事なものがいくつもありますが、インテリジェント・デザインのような宗教的な存在を仮定することがない限り、すべての機構は受動的にできあがってきたことになります。
 ある程度変異が蓄積すると「生殖隔離」という現象が起こり、その個体と元の種の個体からは子孫が残せなくなります。そうして新しい種が生まれるというわけです。

 以前ジャンプという雑誌に荒木飛呂彦先生の「バオー来訪者」という漫画がありました。その中で「この寄生虫は進化速度を速めてある」という記述と「それに耐えられず多くの個体が死んでいった」という記述とがありました。これは上で記載した進化の実情をたいへん良く反映していると思います。つまり「進化速度を速める」というのは「遺伝子の変異確率を高める」と言うことであり、「多くの個体が死んでいった」というのも「ほとんどの変異は有害なものである」ということです。
 同先生の「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画の中で究極生物となった敵の一部がさまざまな生き物に変化するという記述がありました。これは19世紀にヘッケルというドイツの生物学者が唱えた反復説に基づくもので、現在では既に否定されているものです。でも漫画として面白いから良いのですが、荒木先生も完璧ではないということで。。

 淘汰圧を高めるために、例えば医療行為はいけないことだ、とか乱婚性がもっとも優れたシステムだ、というような意見もあるとは思いますが、私はそれは間違っていると思います。私自身入院していた経験もあるし、子供が生まれるときに感動したことなど、医療の素晴らしさも一部理解していますので、医療活動というのは神聖な、素晴らしいものだと思います。また人類(ヒトという種)は殆どの国で一夫一妻制を採用してきており、多分それが歴史を越えて選ばれてきたもっとも優れた最良のシステムなのだと思います。アラブなど、一部の国で富裕層のみが一夫多妻制を維持しているので、おそらく子供を育てる時に一夫一妻制の利点が発揮されるのだろうなとは思いますが、その話はまた今度にしたいと思います。

 最後に、これは大胆な予測です。脊索動物の基になったナメクジウオという小さな動物が海にいます。最近の研究でこの生き物の染色体構造はマウスやヒトのものとよく保存されていることが分かりました。これは同じ脊索動物のホヤの染色体構造がマウスやヒトのものと大きく食い違っているものとの重大な相違です。ちなみにナメクジウオは化石を見る限り、祖先の形態と非常に良く似ています。この外側に棘皮動物(ウニ・ヒトデなど)や半索動物(ギボシムシなど)といった動物群があります。ナメクジウオの幼生が中空の胞胚を経て発生する、ウニやギボシムシの幼生の発生とよく似ていることは一部の研究者の間では衆知の事実でありますが、私は「形態的に生きた化石であるということは、(そうである必要はないのですが)ゲノム構造的にも化石的な特徴を残している。すなわち脊索動物の共通祖先のゲノムはナメクジウオのもののようなものだった」ということを唱えたいと思います。

 

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