緒言の中で「nature誌に論文が載るよりすごい!」と言う記述があったので、それを補足するために第1回目は「論文・雑誌の格付け」というテーマにしようと思います。

 まずは雑誌に論文が掲載されるプロセスを説明します。最初に研究者が頭をしぼって論文を著述し、それをどこかの科学雑誌に投稿します。投稿された雑誌の編集者はその論文が審査される価値があるかどうか判断して、価値あるとの判断に至ったら2〜3人の審査員(レビューアー、レフェリー。当該分野の大学の先生など)に論文を転送します。審査員は雑誌のレベルに応じてこの論文がその雑誌に掲載される価値があるかどうか審査して、そのまま掲載可(アクセプト)・追加実験など論文に何らかの改良を加えた上で掲載可(条件付きアクセプト)・改良を加えた上で著者に書き直し、再投稿してもらってもう一度判断する・不受理(リジェクト)のどれにあたるかという判断を下し、論文に対するコメント(改良点など)も追記します。このプロセスを査読(ピア・レビューイング)と言います。大学の紀要雑誌などには通常査読プロセスがありませんので、業績を記入する時に査読があるか、ないかということは重要な問題で、業績にはその旨を記入するようになってきています。付け加えると雑誌の編集者というのも超一流雑誌のものを除くと殆どが大学の先生です。
 査読プロセスというものを誰が考えたのかは分かりませんが、ここ100年くらいの間とてもうまく機能してきています。論文の査読のみならず、似非科学的記事が紛れ込むことがないよう、web pageも査読されるべきだと思ってしまうくらいです(そういった意味でも何か間違いがないのか皆さんのコメントをお待ちしております)。また、この審査は雑誌からお金が出るわけではなく(雑誌によっては小さな景品を送付することはあるようですが)、審査員の皆さんは与えられた自分の仕事の一部として時間のかかる作業を当然のようにボランティアとしてやっています。査読プロセスに研究の競争など個人的な感情が紛れ込むこともまったくないわけではなく、論文を投稿するときには「この人は審査員にしないで下さい」ということを記述する欄もあります。
 掲載された論文の価値は、「その論文が他の論文にどれだけ引用されたか」というもので量ります。これをインパクト・ファクターと言います。ある年に載った全ての論文のインパクト・ファクターを平均したものが、その年の雑誌のインパクト・ファクターです。重要度を引用数で量ろうという試みも、誰が考えたのか分かりませんが、なかなか的を射た素晴らしいものだと思います。

 Cell、Nature、ScienceというのはCNS(中央神経系 central nervous system をもじったもの)と並び称されることもある、超一流誌です。Natureはイギリス(ヨーロッパ)の雑誌で、Scienceはアメリカの雑誌です。これらの雑誌には物理学や化学など、生物学以外の論文も数多く載っており、生物学の論文は雑誌の一部(1/3くらい)です。Cellはこれらの雑誌とは多少毛色が違い、生物学分野のみの学術誌で、もともとはマサチューセッツ工科大学の機関誌でした。Cellは例外ですが、NatureやScienceは大きな本屋であれば普通に売っています。「NatureやScienceは科学的分野に関心があれば、個人でもお金を出して買う例外的な雑誌だ」と誰かが言っていました。これらの雑誌のニュース記事は政府の科学政策に大きな影響を与えることがあるほど力のあるものです。またこれらの雑誌の編集者は大きな力量と権限の持ち主で、論文を審査員に廻さずに自分たちだけで「リジェクト」という判断を下すこともあります。CellやNatureのような超一流紙がアジアにないのは寂しい限りですが、最近論文を読んだ限りでは中国の研究レベルは急速に上昇してきました。アメリカやヨーロッパの大学に研究室を構えている中国人の研究者の論文かなと思ったら、中国本土の研究室の論文だったり。もしかすると数十年後にはアジア発の超一流科学雑誌も出てきているのかもしれません。
 最近は殆どの研究者がPDFという形で論文をコンピュータ上で読むようになりました。この方法だと居ながらにして論文が瞬時に手に入るし(以前は研究室にない場合は図書館に赴いて論文を光学コピーするか、それでも雑誌がない場合は著者に問い合わせて論文(別刷という雑誌の一部)を送ってもらう必要がありました)、収納場所が大変節約できるようになってきているのですが、その反面、論文の購読料(大学から雑誌のweb pageにアクセスするための料金)が大きな金銭的負担となって大学の図書室を苦しめています。雑誌の編集者に払う給料やweb siteの維持にかかるお金を捻出するために、論文の投稿料を取るのは時代の流れなのかも知れません。その反面、以前は存在していたカラーチャージ(図はカラーにすると印刷代がかさむので別途徴収していたお金)はなくなっていく(or 既になくなった?)のだと思います。

 論文にはオリジナル(原著)論文とレビュー論文と、大きく分けてその2種類があります。原著論文というのは、実験を行ってそれを報告する、全てのオリジナルとなるもので、レビュー論文というのは数々のオリジナル論文を短く要約してまとめ、時には自分の考えも交えて記載する解説論文です。日経サイエンスという雑誌はScienceの日本語版だと誤解されることもあるようなのですが、Scientific Americanというアメリカの科学雑誌の日本語版です。この雑誌も大きな書店には必ず置かれ、科学的分野に関心ある人たちの間で広く読まれています。論文の質も非常に高いものですが、専門外の読者にも分かるように分かりやすく書かれています。この雑誌に載っている論文がレビュー論文の良い例です。レビュー論文はインパクト・ファクターが高いので一般誌の冒頭にも良く載っていますが、レビュー論文ばかりを載せたレビュー誌と呼ばれるものもあります。日経サイエンスよりもっと専門性の高い雑誌として、羊土社の「実験医学」や秀潤社の「細胞工学」、残念ながら休刊となってしまいましたが「蛋白質・核酸・酵素」といった雑誌があります。これらの雑誌も非常に質の高いもので良い論文がいっぱい載っていますが日経サイエンスに比べると読みにくくなっています。余談ですが、羊土社の社長さんはもともと童話を出版したいという夢を持っていたそうで、社名がこのようなかわいい名前となっています。
 日経サイエンスに類似した分かりやすく書かれたものとして、Newtonという雑誌があります(私見ですが、簡単な記事にイラストを多用するのは、雑誌を重くするし研究者は文章から目を離すことを嫌うので、論文を読みにくくしているように思います。もう少しイラストを省いて雑誌を薄く軽くすればもっと読みやすくなるのになと思います)。また岩波書店からは「科学」という雑誌が出ています。以前は中央公論社から「自然」という雑誌もでていたようです。普通は殆ど馴染みがないかもしれませんが、科学新聞という媒体もあります。これは各研究室で主に科研費の採択事情を知るために購読していることが多いと思いますが、すべての分野を網羅するのは無理にせよ、きちんと取材活動も行っており、お金を払って購読するのにあたいする優れた内容の新聞であると思います。
 以前にはQuarkという講談社から出ている科学雑誌もありましたが、休刊となってしまいました。この雑誌はインパクトを高めるためか似非科学的な記事も時折混ざっていたような気がします。同社から出ているブルーバックスという科学分野の新書も全般的に見て非常に質の高いものですが、ごく少数似非科学的なものも混じっています。ピア・レビューシステムによるチェックが望まれる所以です。

 多少長くなりましたが、言いたいこともだいたい終わったのでこの文はここで終わることとします。それではまた次回お会いしましょう。

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